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私が勤める病院には、変わった見舞いの客が訪れる。毎日のように父を訪ねてやってくる、小学校に入るか入らないかそこらの少女だ。
ただ、その親父さんはというと、少女が産まれた時から眠ったままで、彼女は産まれてこの方実の父の声を聞いたことがない。
今日も、少女はやってきて、一方的に話し掛けていた。
「ねえパパ、今日は叔父さんたちと遊園地に行ったんだよ」
物言わぬ父に語り掛けるその様子がとても健気で、職員一同、胸を打たれぬ者はいなかった。
誰もが少女の父の回復を願い、少女と語り合うその姿を想像する。そして、実現したいと思う。職員一同による治療にも、自然と熱が入った。
そう、喩えその父親が、少女の母親を殺した罪人だとしても。
少女と最も近い血を持っている人間は、もはや父親だけなのだから。
嗚呼、どうして運命とはこんなにも残酷なのだろうか。まるで、悪戯の神が描いてしまった悪趣味なシナリオだ。
少女の父親が母親を殺した時──正確には、母親が瀕死の重傷を負った時、少女は産まれたのだ。
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