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「────ッ!?」
闇を纏(マト)った不吉な赤。これは、酸素に触れた血液ではないか。私は思わず息を飲んだ。
何故、私の手に血が……。
そういえば、何かを忘れている気がする。この、霧に包まれたようにはっきりしない思考は何なのだ。
私は、ユメカの質問に答えることができなかった。
私が答えあぐねていると、ユメカは薄く笑った。質問に対しての返答を放棄したが、どうやら機嫌を損ねてはいないらしい。
ちくりと、胃が締め付けられるように痛んだ。
「おじさん、煙草は吸うの?」
煙草。どうしてそんなことを訊くのだろうか。
「す、吸うよ。妻には辞めろと言われているけどね」
しかし、ポケットには煙草が入っていない。何処かで落としたのだろうか。
すると、私とユメカの間に、居間にあるはずのガラスの灰皿が置かれていた。
いつからそこにあったのだろうか。私がよく吸う銘柄の煙草も、百円ライターと一緒に灰皿の横へ添えられていた。
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