指切り問答 [side:Clown]

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 だが、それは到底いつも目にしているものでは有り得ない。  光を透過するインテリアじみた灰皿に、赤がこびりついている。それは、まさに私の左手を濡らしたものと、寸分の違いもない濃赤色。  明らかに、灰皿が本来の用途とは違ったことに使われた形跡だった。 「おじさんは、この灰皿の赤いものが何だか分かる……?」  血だ。間違いない。  しかし、少女を前にして、私は答えられない。胃が重い。  沈黙を守る私に、少女は質問を重ねる。 「おじさんは、出掛ける前に何をしていたの?」  出掛ける前に何をしていたか。  思い出せない。思い出そうとすると、それが禁忌に触れる行為であるとでも言わんばかりに、無意識の私は記憶を閉ざす。  胃が、重くなる。 「おじさんは、灰皿を何に使ったの?」  血。間違いない。私自身が無傷ならば、無言の灰皿が語るのはもう一つの可能性。  胃が、重くなる。
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