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「おじさんは、出掛ける前に喧嘩をしていたよね?」
嗚呼、何故ユメカは、無意識の私が鍵を掛けた心を、まるで抉るように詮索するのだろうか。
その言葉は、常に事実ばかりを述べる、神聖なる糾弾なのだ。
胃が、重くなる。
「おじさんは、怒っていたよね?」
もはや、私に自らの心を開く術はない。ユメカの語る言葉のまま、緊縛された記憶がほどかれてゆく末を、一人の傍観者として見守るのみ。
胃が、重くなる。
「おじさんは、赤いお花を咲かせたのよね?」
私の罪が、暴かれてゆく。
無垢なる断罪者、ユメカによって。
胃が、重くなる。
「おじさんは──」
そしてとうとう、私が最も恐れていた言葉が、桜色の唇によって紡がれる。
「──ママを、殺したのよね?」
その言葉が脳に響いた瞬間、私の記憶が爆発した。それは、起爆剤に火がつけられたような、抱えすぎた重みに堤防が決壊したような激しさをもった、情報の氾濫だった。
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