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唄に登場する『彼女』とは、世界を救ったとされる少女のことだった。
真実を知った人々は彼女の偉業を称え、彼女のことを『紅の天使』と呼んでいる。
――私たちの心の中 廃れることなく
――忘れないで 真実の物語を
――明日へ繋いでゆきましょう 私たちの手で…
少年もまた、『紅の天使を』愛していた。
会ったことなどもちろんないが、かっこいいと思う。
かれにとって、彼女は憧れの存在だった。
――待っていたのは希望
得たのは未来
――与えてくれたのは紅き少女
たっぷりと余韻を残し、歌は終わった。同時に、踊りも終わる。
2人の吟遊詩人は深々とお辞儀をし、急ぐようにその場を辞した。
彼らが去った後も、広場の興奮は冷めることがない。
有意義な時間を過ごした人々は口々に、吟遊詩人の唄と踊りを誉め称えていた。
その中で、やはり興奮が冷めない少年は、横にいる母親に熱っぽい瞳を向けながら、こう言った。
「母さん、僕将来英雄になる!」
突然の発言に、母親は驚いたようだがすぐにその顔を笑顔に変える。
「そうね。天使様のように、優しくて強い大人になれるといいわね」
「うん!絶対、絶対に英雄になる!」
瞳を輝かせ、母親の言葉をあまり理解しているとは思えない返答をする。
「さぁ、遅くならないうちに帰りましょう」
そうしてその親子は、仲良く手を繋ぎ去って行った。
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