第1章 英雄希望①

4/8
前へ
/140ページ
次へ
唄に登場する『彼女』とは、世界を救ったとされる少女のことだった。   真実を知った人々は彼女の偉業を称え、彼女のことを『紅の天使』と呼んでいる。   ――私たちの心の中 廃れることなく   ――忘れないで 真実の物語を   ――明日へ繋いでゆきましょう 私たちの手で…   少年もまた、『紅の天使を』愛していた。   会ったことなどもちろんないが、かっこいいと思う。   かれにとって、彼女は憧れの存在だった。   ――待っていたのは希望  得たのは未来   ――与えてくれたのは紅き少女   たっぷりと余韻を残し、歌は終わった。同時に、踊りも終わる。   2人の吟遊詩人は深々とお辞儀をし、急ぐようにその場を辞した。   彼らが去った後も、広場の興奮は冷めることがない。   有意義な時間を過ごした人々は口々に、吟遊詩人の唄と踊りを誉め称えていた。   その中で、やはり興奮が冷めない少年は、横にいる母親に熱っぽい瞳を向けながら、こう言った。   「母さん、僕将来英雄になる!」   突然の発言に、母親は驚いたようだがすぐにその顔を笑顔に変える。   「そうね。天使様のように、優しくて強い大人になれるといいわね」 「うん!絶対、絶対に英雄になる!」   瞳を輝かせ、母親の言葉をあまり理解しているとは思えない返答をする。   「さぁ、遅くならないうちに帰りましょう」   そうしてその親子は、仲良く手を繋ぎ去って行った。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加