第2章

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そこまで黙って話を聞いていた俺達だったが、信じられないという顔で小津が口をはさんだ。 「ゾンビってのは、冗談でしょ? だいたいニュースでそんな事は一言も言ってないじゃないすか。」 当然その突っ込みが入ると、予想していた熊切は、小津の目を見ていつものように冷静な口調で答えた。 「報道協定だろう。今回の事件は変則的かも知れんが。 政府とマスコミは、日本人がお上の言う事には逆らわないと知ってるからな。 妙な病気やゾンビなんて噂が広まったら大変な事になる。 それに一般市民がパニックを起こして物資の買い占めや国外に脱出されると困るからな。」 報道協定とは主に、誘拐事件の際に、警察と記者クラブ加盟のマスコミ各社の間で締結される協定で、テレビやラジオで、被害者の家族が通報した事がバレないように、マスコミは事件解決まで報道を控える事だ。 そのかわり、警察は入手した情報を定期的にマスコミ各社に報告する。 恐らく、事実が公表されるとパニックになるので、徹底的に情報をシャットアウトしてるのだろう。 熊切は話を続ける。 「だが、これだけネットが普及している現代に完全に口を封じる事は出来ない。 だからネット上では、検索サイトの運営会社に圧力をかけてフィルターをかけさせたり、公安が工作員を使って、病気やゾンビなんてのはデマだって情報を流しているんだろう。 そんなもんより生身の人間の北朝鮮の工作員のほうが、まだ対処しやすいと思うからな。」 ネットでフィルターというのは中国で使われている手だ。あの国では天安門事件はタブーで、Googleでさえ未だに検索してもヒットしない。 工作員がデマを流すなんてのも、古典的だが効果がある手だ。 妙な病気やゾンビが出たという書き込みをした者を、狂人扱いしたり工作員だと決めつけて、寄ってたかってデマや中傷で発言を封じ込めてしまう。 深刻な事態が徐々に近づいている事に、能天気な俺達は全く気づいていなかった。 口の達者な小津も、返す言葉が無く呆然としている。 三谷さんも深刻な話にうつむいている。
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