序章

3/3
前へ
/226ページ
次へ
・ ・ ・ どれぐらいの時間、こうしてうずくまっていただろう。 ふと、腕のGショックのアラーム音に我に帰った俺は、デジタル表示されている時刻を目にして日没が近い事を知った。 …いつまでもこうしてはいられない。 …早く仕事を終わらせよう。 …日が暮れると危険だ。 ひとり呟くと、俺は痛む膝をかばうように緩慢な動作で立ち上がる。 そして自分の仕事に戻るべく、ボコボコに傷がつき、血と埃で汚れたランドクルーザーのバックゲートを開け、工具箱を取り出した。 …今日の目当ては食料と衣類だな。 ポケットから取り出した紙切れを見ながらひとり呟き、ジーンズの腰にぶち込んだニューナンブM60の回転式の弾倉に、弾薬が6発装填されている事を確認した。 今までになんども俺の命を救ってくれたこの拳銃は、頭から脳みそをはみ出し、右足が付け根から引きちぎられて、死体になっていた交番の若い警察官が手に握りしめていた物だ。 その拳銃で、生き延びる為に、俺は‘奴ら’を撃ちまくり、バレルは焼け付き、グリップは欠けてボロボロの廃品寸前になっている。 もう狙い通りに撃てる保証は… …全く無い。 …今日は使う事は無いだろうが念のためだ。 もう一度拳銃を腰にぶち込み、右手には血のこびり付いたバールを軽く握り直す。 ボサボサで伸び放題の髪の毛を掻きむしりながら、ふと平和で退屈だった日々を思い出す。 …前に熱いシャワーを浴びたのはいつだっけな…。 …長い間まともに風呂すら入れてないからな。 俺は、そんな平和だった過去を忘れるように、一つ首を振ると、ずっしりと重い工具箱を担ぎ、冷凍食品メーカーと思われる看板のかかった巨大な建物のバックヤードに向かって重い足取りで歩いていった。
/226ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1346人が本棚に入れています
本棚に追加