第1章

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「混み合いまして恐れいります。次の停車駅は梅田…梅田…」 大阪キタの中心に位置する地下鉄御堂筋線梅田駅はJR大阪駅、阪急梅田駅、阪神梅田駅等と直結し、一日の乗降客が約100万人と言われる関西最大のターミナル駅である。 そんな地下鉄梅田駅に向かう、月曜の朝の殺人的な通勤ラッシュに、いつものように押し潰されながら、俺は傾きかけた身体を立て直し、人の波に乗ってどこか遠くに旅だってしまいそうになっているカバンを取り戻そうと必死になっていた。 そして、顔は目の前のおっさんに密着しながらも、なんとかヤニ臭い息を避けようと顔をそむける。 そうして不自然な体勢のまま、顔と視線を斜め上にやると、自然に中吊り広告が目に入ってくる。 一瞬、雑誌の表紙のグラビアアイドルのビキニの豊満な谷間に視線が釘付けになるが、ふと何気なく見た隣の中吊りの週刊誌のタイトルが目に飛び込んできた。 [中国軍の東海艦隊所属のミサイル駆逐艦が台湾海峡で大規模演習] [北朝鮮の平壌の化学兵器の研究所で火災が発生し多数の死者] …いっそこのまま戦争でも起きれば会社行かなくて済むのになぁ。 いつものように、そんな物騒な事をを考えているうちに、電車は梅田に近づき減速を始める。 電車がホームに滑り込み、ゆるやかに停止し、ドアが開くと、それと同時に後ろから突き飛ばされるようにして、俺は電車から吐き出された。 そして、渦巻く人混みに押し流されるようにして、職場のあるA建設のビルに向かう。 梅田地下街を重い足どりで進む俺は、さっきの週刊誌の記事の事を思い出していた。 …昨日のニュースでも中国軍の戦略原潜が日本の領海を侵犯したって言ってたしな、中国の政変と経済の大恐慌が原因で、何かあるかもなぁ。 いや、あったら良いなぁ。 そんな事を考えながら、いつものように遅刻ぎりぎりに会社に着いた俺は、自分のパソコンの電源を入れ、一通りメールをチェックした後、缶コーヒーを飲みながら仕事もせずに早速インターネットのニュースに目を通した。 [北朝鮮の潜航艇が福井県敦賀湾に漂着] この事件のタイトルに目を引かれた俺は、ちょっぴりワクワクしながら本文を開いた。
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