第1章

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<北朝鮮の物と思われる潜航艇が敦賀湾の砂浜に座礁しているのが発見されたが、乗組員は全員行方不明、艇内はあちこちに血や肉片が飛び散り、激しい争いがあった跡が見られた。 そして福井県ではその乗組員の行方を追って、警察と地元消防団が総動員で沿岸地域での検問と山狩りを実施中> 丹念に読み進めるうちに、背後に不吉な影の気配を感じた俺は、とっさにブラウザを閉じてExcelの見積書シートを開いた。 「おい、黒澤君。昨日の見積書出来たのか?」 急に背後から上司の周防課長に声をかけられた俺は、背中に冷たい汗をかき、しどろもどろになりながらも、かろうじて当たり障りの無い返答をして、しばらくの間、真面目に仕事に戻る事にした。 ・ ・ ・ 「あー疲れた。今日のミーティングは長かったなぁ」 夜11時を過ぎて、やっと大阪市の天王寺区にある独身寮に着いた俺は、部屋に入ると鞄をテーブルの上に放り投げてネクタイを外した。 そしてスーツのまま、ベッドに腰掛けてテレビの電源を入れると、ニュースは時間を延長して、福井県の潜航艇事件の特別番組になっていた。 ヘルメットをかぶった現場の女性レポーターは、乗組員は今だに行方不明、敦賀湾近辺ではこの事件の直後から、奇妙な病気が発生している。 また、福井県では県知事から自衛隊に、災害派遣の出動要請が出され、陸上自衛隊中部方面隊の第3師団が出動した事を伝えていた。 報道のヘリからの映像では、すでに、第3師団の先遣隊の、第14普通科連隊約800名が敦賀湾に面した公共施設の敷地に、宿営地の設営を開始し、さながら戦争映画のワンシーンの様相を呈していた。 「こりゃすごいな。でも病気ってなんだ?北朝鮮から伝染病でも持ってきたんかな?」 疑問に思いながらもチャンネルを変え、別のニュースを見ると、ここでは、その奇妙な伝染病と暴徒が市街に侵入しつつある事を伝えていた。 また、上空の報道ヘリからの中継では敦賀市の市街地から火の手があがる様子が写し出され、視聴者からの投稿による携帯動画では、原因は不明だが一般市民が暴徒化し、道路を封鎖する機動隊に襲い掛かる映像がスクープとして流されている。
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