第1章

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会社を出て、地下街を駅まで歩く途中、朝から何も口にしていない事を思い出した俺は、途中のコンビニに入った。 そして商品棚から缶コーヒーを一本取り出すと、支払いをしようとレジに向かった。 レジの横に置かれているスポーツ新聞には [福井県での死者、行方不明者100名以上] [中国空軍の戦闘機が台湾領空を侵犯し、緊張高まる] といった見出しが踊っている。 新聞は気になったが、お得意さんとの契約がひかえている俺は、それどころではなく、缶コーヒーを飲みながら駅に向かった。 駅に着いた俺は、契約書の内容を頭の中で繰り返しながら、飲み終わったコーヒーの空き缶をゴミ箱に捨て、ふと周囲を見回した。 いつもと同じ、駅の風景。 足早に先を急ぐサラリーマン。隙の無いメイクのOL。キャリーケースを引き、ガイドブックを片手に歩く外国人観光客。 平和そのものの日本。 これがどうにかなるなんて事はどう考えても想像できない。 直線で200kmほどの場所で起きている、ニュースや新聞の出来事が、現実感の無い、遠い外国の出来事のように思えてくる。 それに今の俺は、給料を支払ってくれる会社の為に働く身分だ。 ひとまず、世界平和の事は忘れて、俺は自分の仕事を済ませる為に、改札を通ってホームに歩いていった。
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