お題バトル【紅】

2/4
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
①出品せず 「お前さぁ、呉の藍って知ってる?」  トイレから戻るなり、少女を意味の分からない質問が出迎えた。 「……くれのあい?知らんっ」    美味そうにパフェを頬張る、鈍感な少年を軽く睨む。彼女は、淡い色の口紅を塗り直すことが出来ない。鏡の前に、化粧直しに余念のない『オトナの女』が立っていたから。映画を観た後も、ハンバーガーを食べた後も。  少年の目の前で塗り直しても意味がないのだ。 「くれのあい……くれのぅぁい……」  最後に残していた苺で、器の生クリームを拭き取りながら、少年は呪文を唱える。得意げな笑みを少女に向けて。 「くれない……紅」 「はぁっ?」 「紅の語源」 「……で?」 「口紅付けてたろ?朝」  彼は苺を口に放り込むと、そっぽを向いた。 「眉毛も細くしやがって」  少女は頬を染め、素の唇を噛んだ。少年の横顔を上目で見つめた。  嬉しいのに、悔しい――。 「ゆうべ、前髪も切ったけど」  お冷やの氷を噛み砕いていた少年が、ハッと向き直る。 「……マジ?」  限界までこらえて、前髪を指で揺らしている少女が、肩を震わせながら舌を出した。 「うっそ~っ!」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!