片岡紗英の迷走

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「なによ……勝手にしろって、そんなこと言っときながらどうせまた何かあったら、あんたは岡本と倉田が上手くいくように手をかすんでしょ? あいつとトモダチだもんね? あたしが必死になったって、また元に戻すんでしょ?」  責め立てるように少し早い口調で、そう言い放つと、藤嶋はそんな惨めなあたしに冷めた視線を向けて、黙り込んだ。これが岡本の言ってた「沈黙は肯定の返事」ってやつ?やっぱりそうなんじゃない。そうやって考えていると、藤嶋は視線を下げた後、またあたしに視線を向けてから、閉ざしていた口を開いた。 「だから、別に片岡の邪魔する気はねえっつってんだろ。興味もねえし。わざわざ由貴と倉田をくっつけようと動く気もねえっつってんじゃん」 「…………」 「つうか、そうやって人にうまくいかねえこと当たったり、必死になってるあのバカの邪魔する前にやることあんじゃねーの? そういうことはやることやってから言えよ」  じゃあな、と藤嶋は言うと、右手をブレザーのポケットに入れて、あたしに背を向けて足を進めた。藤嶋のダルそうな後ろ姿が遠ざかってく。あたしは藤嶋に言われたことが頭の中をぐるぐる回って、その場に立ちつくしたまま。  わかったようなことを言うだけ言って、去って行った藤嶋。 『人にうまくいかねえこと当たったり、必死になってるあのバカの邪魔する前にやることあんじゃねーの?』  なによ、わかったようなこと言わないでよ。あんたに何がわかんの。 「ムカつく……」  もやもやした気持ちをどこにぶつけていいかわからなくて、手に持っていたローファーを地面に投げつけた。バシン、という音がして、ローファーが地面に転がって裏向きになる。そんな惨めな光景を見ながら、唇を噛んだ。  藤嶋の言ってることは間違いじゃない。気付いて振られたくないから、トモダチとしてでさえも一緒にいられなくなるのが嫌だったから、結局自分は何もやってないことを言い当てられたのが悔しかった。
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