片岡紗英の迷走

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 火曜日、岡本は、元気はなかったけど普通に接してくれた。それは演技なんかじゃなかったから、藤嶋は本当に言ってなかったのがわかった。放課後、一緒に正門まで帰ろうと誘ってくれた。嬉しかったけど、岡本は下駄箱まで一言も喋らずに外をぼんやり見ながら少し前を歩いていて、その横顔を見て、たまらなく苦しくなった。  誰のこと考えてるの?  岡本から『千秋』を遠ざけても、岡本の気持ちが変わるはずなんてなくて。あたしを見てくれるなんて都合のいいことが起こるはずなんてなくて。下駄箱の前で岡本が話したスイッチの話。  あんたのスイッチがあの子にしか操作できないように、あたしのスイッチもあんたしか操作できないんだよ。あたしのスイッチは気付かれないまま押しっぱなしで、切られることをただただ、待つことしか出来ない。  水曜日。  朝、岡本は月曜や火曜とくらべものにならないくらい元気よく教室に入ってきた。なんとなくわかった。  予想は的中で、岡本はまた『千秋』と連絡をとれるようになってた。あたしと正門前で別れた後、2人は会ってた。自分でもヒドイと思うことを言ったのに、どうしてそんなにすぐに元に戻れたのか不思議だったけど、なんとなく予想は出来た。藤嶋が何かしたんだ、そう思った。  また連絡をとれるようになったことを喜んでる岡本。あたしがやったことは結局、なんの意味ももたなくて。  どうすれば、あんたはあの子を見なくなる?そんなことばっかり考えてた。  あの子が岡本の前から消えてくれたらいいのに。
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