片岡紗英の迷走

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 放課後。  岡本はこれから『千秋』と会うんだって、すごく嬉しそうに、楽しそうに笑って教室を出て行った。行かないでという権利なんてあたしにはなくて。ただその後ろ姿を眺めた。  麻美と梨佳は前の合コンで知り合った明治学園のヤツらと約束があるからって、先に帰った。ホントはあたしも行こうと誘われたけど、そんな気分でもないし、行って麻美や梨佳に気を遣わせるのも嫌だったから断った。  明治学園の頭も良くて、顔もそこそこ良い金持ちのヤツより、バカで顔も大して良いわけでもなくて、金持ちとはほど遠い岡本がいいなんて。やっぱあたし見る目ないのかも。すぐに帰る気分になれなくて、放課後の教室に1人で残った。  机も椅子も黒板も床も。全部オレンジ色になる。椅子に座って、ぼんやりと隣の席を眺めた。机にはわけのわからない頭の悪そうな落書きがしてあって、机の中には雑に詰め込まれた教科書。  なんだか、無性に苦しくなって、椅子から腰を上げて立ち上がった。隣の席の椅子を見下ろして、軽く蹴る。 「……バカ」  ガタン、と小さい音が教室に響いた。  溜息を1つついて、机の上に置いていた鞄を肩に掛けて教室を出た。廊下にも誰もいなくて、溜息。何やってんだろ、あたし。暗い自分にとてつもなく嫌気がさしてきた。今頃、岡本はあの子と楽しそうに笑ってんのかと思うと、自分がすごく惨めに思えた。  誰もいない廊下を歩いて、下駄箱に向う。帰って、何しようかな。学年末も近いし、やっぱ勉強?それしかすることないしね。帰りにマスカラ買って帰ろう、もうすぐ無くなりそうだし。  下駄箱に着いてから、上履きを脱いで、緩慢な動作でローファーを取り出していると、後ろで、カタンと靴を取り出す音が聞こえた。ローファーを持って振り返ると、そこには茶髪の後ろ姿。藤嶋竜。  あたしより少し遅れて藤嶋が振り返ると、目が合った。藤嶋は相変わらずの無愛想な表情のまま視線をあたしから玄関に向けると、何も言わずにその場を去ろうとした。
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