片岡紗英の迷走

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「したっつーか。そっちがついたウソでややこしくなったのを元に戻しただけだし。大したことじゃねえだろ」  まあ、元に戻るかどうかはハッキリとわかんなかったけど、と藤嶋は言うと少し下に向けていた視線をあたしに移してきた。大したことじゃない?十分大したことよ。そのせいで、また岡本と『千秋』は元の距離に戻った。 「そんだけ? じゃあな」 「…………」  藤嶋は面倒くさそうな顔でそう言うと、あたしに背を向けて帰ろうとした。その後ろ姿を少しだけ見た後、藤嶋が外に出る直前にまた声をかけた。 「待って」 「……んだよ、まだあんの?」  ダルそうに言う藤嶋。あたしは一歩だけ近付いて、口を開いた。 「なんで……ジャマするのよ。普段、無関心そうにしてるくせに、なんでこういうときに邪魔するの。岡本が『千秋』を好きだから? だから、あんたは『千秋』側なの?」 「は? どっちかについた覚えとかねえんだけど。つうか、そもそもその辺のこととか興味ねえし」 「だったら、もう余計なことしないでよ」  飄々とした態度の藤嶋を睨み付けながら、そう言うと、藤嶋は右手をポケットから出して、髪をかき混ぜながら心底面倒くさそうに溜息をついた。下に向けていた視線をあたしに向ける。 「そっちにとってみれば、余計なことだったかもしんねえけど。あいつのことを倉田が勘違いしてんの聞いて、それを知らずに落ち込んでるあのバカを見て放っておけるほど俺だって、由貴に無関心なわけじゃねえし。それは別に倉田側だとか、片岡側だとか関係ねえよ」 「…………」 「今回は少し口を挟んだけど、そもそも、あいつと倉田のこともそこまで首突っ込む気ねえし。俺が何とかしてくっつけてやろうとか思ってねえから」  勝手にしてクダサイ、と言った後、ずり落ちてきた肩に掛けた鞄を掛けなおしながら、藤嶋は「もういい?」とダルそうに聞いてきた。そんなダルそうな藤嶋に、イラついてんのかなんなのかわかんなくなった。
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