片岡紗英の迷走

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 オレンジ色に染まる駅前を1人で歩く。あれから、学校を出て、家に帰る気にもならなくて買おうと思っていたマスカラを買いに駅前に来た。駅前は学校帰りの中学生や高校生とかで賑わいでた。  同じ制服のヤツらとか、他校の制服のヤツらがごちゃごちゃと混ざる。バカみたいに笑いながら、駅前をうろついてるやつらは全員寄り道。そんな浮ついた中、暗い顔して歩くあたし。サイアク。  お気に入りのマスカラの入った袋を持って、歩いてると一瞬、岡本と『千秋』にそっくりな後ろ姿を見つけて足を止めたけど、人違いだった。それでも、まったく見ず知らずのヤツらの後ろ姿で前に見た光景を思い出して苦しくなった。視線を逸らして、反対側に視線を向けた。そこには雑貨屋のショウウィンドウ。  カンペキなメイクで、派手な格好をしてるのに、そんな格好に似合わない沈んだ顔をしたあたしがいた。あたしの格好は自分でも、あんまり声をかけたくない雰囲気だと思う。現に岡本と仲良くなるまで、あたしはクラスメイトに避けられてたし。ずっとずっと見た目で中身も判断されてきた。  そんなあたしに最初から今と変わらない態度で接してくれたのも、最初から見た目じゃなくて、『あたし』を見てくれたのも岡本が初めてだった。  ウザイ、キモイ、バカだって悪態ついて、鬱陶しそうな顔をしながら、本当は内心岡本が変わらない態度で接してくれるのが嬉しかった。  あんたといると、自然でいられた。バカ言って、笑って。そこにいるのはカンペキなメイクで自分を強く見せてたあたしじゃなくて、本当の『あたし』だった。 一緒にいてそんな風に思えたヤツなんて今まで居なかったから好きだと伝えて、今の関係が壊れるのが嫌だった。  いつか言おうと考えながら、結局それが「好き」という言葉を閉じ込めた。
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