片岡紗英の迷走

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 きっと、こういうことに免疫がない岡本は気まずくなって、今まで通りに接することが出来ないと思うし、あたしだって振られても元の関係でいるのは、きっと無理だ。トモダチに終わりはないけど、恋愛が絡むと終わりが見える。  トモダチで居続けて、あんたが『千秋』と上手くいくのを、指を咥えて見てるなんてやだ。  けど、屈託のない顔で笑って、バカみたいな声で「片岡チャン」とあたしを呼ぶあんたを失うのもやだ。『千秋』を岡本から遠ざけて、一番近くにいるオンナノコのあたしを見て、と甘いことを考えて、自分が傷つくのを怖がってたんだ。  惨めで、情けない自分に溜息が零れて、ガラスに映った自分から目を逸らした。あたしはこんなに弱いヤツじゃなかった。いままで告白だってしてきた。振られたりしたことだってあるし、振ったこともある。それでも、こんなに今みたいに関係を変えることに怯えたことはなかった。  失うのが怖いなんて、思ったことなかった。ガラス越しに眺めた雑貨屋の店内。いつの間にか金曜日に迫っていたバレンタインの包装用の小さな箱やリボンが見えた。  このまま言わないままトモダチとして、他の子が好きな岡本を見てることと。  トモダチであることを捨てて、望みのない気持ちを伝えること。  どっちが、つらいんだろう。あの子は、きっと岡本が好きだってことに気付く。  どっちが、つらいんだろう。バカ言って、ずっと今みたいに笑ってたいよ。  でも、二人が付き合ってしまったら、あたしはきっと今みたいに笑えない。
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