倉田千秋の我が儘

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『楽しかったよ』 『ゲーセンとか野球とか、俺もぜんぶ楽しかった』  信じるよ。見えないけど、あたしが感じた気持ちを信じる。  昨日、岡本に声をかけられて腕を掴まれたとき、なんでか苦しくて仕方なくて、どうしたらいいのかわからなくて、みっともなく岡本の前で泣いてしまった。藤嶋から言われた言葉やあの子に言われたことが頭の中でぐるぐるなっていた。  前にいる岡本があの子の言う通り、面倒そうな嫌な顔をしていたらどうしようと思うのに、あたしに確かめる術はなくて。不安でたまらなかったのに。必死に声をかけてくれる岡本に涙が出た。  それは不安じゃなくて、もっと違うもの。自分も楽しかったって。あたしが楽しいと自分も楽しいって。突然泣いたあたしに、掴んだ腕が痛かった?と聞いてくる岡本の声は、すごくすごく優しかった。いつもの明るくて、少し弾んだふざけた声じゃなくて、一言一言、あたしに届くようにゆっくり真剣に言ってくれたことが、すごくすごく嬉しかったよ。  確かな証拠なんてないけど。それを信じることはすごくこわいけど。  あたし信じるよ。岡本はウソをつかない。  そう、信じるよ。ウソついたら、500円罰金なんだからね。  水曜日。  放課後。  久しぶりに放課後遊ぼうと岡本に誘われて、あたしは今駅前の銅像にもたれて岡本を待ってる。岡本を待つ時間に聞こえるざわざわとした駅前の音が心地よく感じるのは、どうしてだろう。 「千秋! ごめん、ちょ、遅れた!」  岡本の声が聞こえた方向に顔を向ける。少し声の調子が途切れてるのは、走ってきたから?別にいいのに。学校が終わる時間なんて、バラバラなんだから。なんて考えながら、じっと声が聞こえる方向を見てると岡本が話しかけてきた。 「今日どうする? どっか行きたいとことかある?」  岡本はトモダチお試し期間のときは自分で決めた場所にあたしを連れて行ってくれたけど、期間が終わった後はあたしに行きたいとこをよく聞くようになった。
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