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短い叫びに合わせ、口から吐き出された火炎ブレスに、染み付いた戦術がとっさに呼び戻される。
避けきれなければ骨まで溶ける火炎ブレスは、竜騎士でも副将軍クラスの必殺技で大佐が使えるレベルの技じゃなかった。
要は試されてるわけで…
危機感から無意識のうちに炎をいなし、懐に踏み込み押し倒していた。
気付いた時には遅く、大佐は満面の笑みを浮かべていて、クリュウは焦る。
しまった…
「出来るじゃないですか。
クリュウ君?でしたか…
教官室へご同行願えますよね。」
大佐は深い笑みを浮かべると、呆然と立ち尽くすクリュウの肩をポンと叩く。
「大丈夫ですよ。
悪い様にはしませんから…」
楽しげな大佐に顔をしかめる。
人だかりが割れて、大佐の後を付いていけば、ひそひそと会話が交わせられ、居心地の悪さから、クリュウの足早になる。
今日は厄日なのかもしれない。
そういえば朝から今日はおかしかったなどと考えているうちに、教官室たどり着く。
「失礼します!!」
大佐の後に続き中に入れば、凛とした声で返事が返ってきて、聞き覚えのある声に、クリュウは我が目を疑った。
部屋で待っていたのは教官ではなく、白金の縁取りに蒼炎の甲冑を纏った将軍で、クリュウの顔から血の気が引く。
彼女は共和国時代最後に手合わせした相手、帝国五大将軍の一人、氷の魔女シャラザラースだった。
緊迫した空気にクリュウはゴクリと生唾を飲み込む。
相手が自分を覚えていても、今は見目が違っている大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせ、再度将軍を確認する。
将軍は大佐と話し込んでおり、こちらには気付いてないようだった。
それにしても、将軍が訓練校にやってくるなどという話は前例が無い。
何だってこんな辺境に将軍がいるのだろうか。
「君はクリュウ君と言ったな?」
「はい!」
まじまじと見られ固まる。
「クリュウ君、私とどこかで会った事はないか?」
顔を覗き込まれそうになり俯けば間一髪の差で、教官が現れて、肝を冷やす。
「閣下お待たせ致しました。
どうされましたか?」
「何処かで見た顔だと思いまして…何処だったかな?
…まぁいい。
それより、この度は急な欠員による人材提供の申し出を、快くお受け頂けて助かった。」
…人材提供?
「アリュゼス、お前の新しい部下とはこの青年か?」
将軍の視線は明らかにこちらを向いている。
一瞬で頭の中が真っ白になった。
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