嗜好・思考・至高

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     (1)     「いい加減にしなさい」    自身の研究室。  もう古くなった椅子の背もたれを鳴らして柊が言った。    それまでの喧騒がなかったかの様にソファに座っていた者が押し黙る。     「でもね、先生」桔梗明日香が沈黙を破る。「絶対に何かあるとは思いませんか?」   「ない」柊が低い声で言う。「あれは“事故”だ」   「それでも、眼の前で“人が死んだ”」國枝知草が静かに言った。「コジローセンセ、現実で起きたミステリィですよ」    國枝知草は頭がいい。  それだけに論争の相手となると質が悪い、と柊は分析していた。     「いいかい、國枝くん」柊が煙草を掴んで火をつける。「君があの場にいたのなら、間違いなく“事故”だと言い、僕側にいるハズだ。明日香くんが三文小説よろしく、誇張して話しているからミステリアスに聞こえるだけだ」   「誇張なんてしてません!」皆の視線を集めた明日香が声を荒げた。    再び沈黙。     「教授、とりあえず珈琲はいかがかしら?」それまで黙って話しを聞いていた香坂楓が立ち上がり、言った。    それを見て桔梗明日香がムッとしたのには誰も気付かなかった。
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