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「かい摘まんで話すと」國枝知草が角砂糖をまた一つ珈琲に入れた。「その“ガルーダ”が仏教に入った時の名前を“迦楼羅(カルラ)”って言う訳さ」
「それと“焼け死ぬ”のになんの関係が?」
國枝知草の説明を聞いても明日香には今一つピンと来ない。と、いうよりも知らない者への説明としては不十分である、と明日香は思った。
「“不動明王”知ってる?」
カップの中身を掻き混ぜながら國枝が言った。明日香のことは見ない。
「それくらい知ってるよ!」明日香がむくれながら言った。「あの、背中が燃えている人でしょ?」
「そう、それ」國枝はカップからスプーンを抜き取ると明日香を指した。「その“不動明王”の背中の炎!あれが“迦楼羅炎”ってガルーダが吐き出す炎なんだ」
國枝は得意げにニヤリッと笑う。
彼が持つスプーンの先からは珈琲が滴り落ちて、研究室の硝子テープルに跡をつけた。
「まぁ、ようするに、なんで“椚カルラ”は“得意技の炎で焼け死んだ”か、ってとこだね。いっそ“椚不動”とかなら合点がいくんだけど」國枝はまた珈琲を掻き混ぜ始める。「ですよね?コジローセンセ?」
急に振られて柊は少しだけ眉を上げる。
「よく、勉強してるじゃないか、國枝くん」柊は肩をすぼめる。「よく出来るのは解ったから、テーブル。拭いておいてね」
言われて國枝がもう一度、スプーンを出す。
そこから落ちた滴で、新しい跡がテーブルにできた。
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