嗜好・思考・至高

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     柊は研究室を出て廊下を歩く。    柊の預かる民俗学の研究室は東西に別れる校舎の西棟、1番奥に位置する為に東側にある駐車場へと行くにはかなりの距離を歩く必要がある。     (長岡刑事は、話したい事がある。と言った)    柊は長岡の話しを想像する。  いくつもの候補は全て“事故”に関するものだった。    それを考えると陰鬱になる。あの場にいた全員が、退屈な事情聴取を体験したことだろう。あれと同じ思いをするのは真っ平だ、と柊は思っていた。     「小次郎」    廊下の向こう側から声がした。  その声には記録がある。蓮實水明だ。     「よう、飯。食ったか?」    蓮實が陽気な感じで言った。柊は首を横に振る。     「これからデートなんだ」柊が肩をすぼめる。   「誰と?」蓮實が口角を上げる。   「聞かない方がいい」柊もつられて笑ってしまう。「でも、終わってからなら付き合ってもいい」    柊の言い回しに蓮實は怪訝な顔をする。    蓮實自身、友人である柊小次郎から“デート”という言葉は初めて聞いた気がしたからだ。     「いいだろう」    少しの間をおいて二人は廊下を東側へと並んで歩き始めた。
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