嗜好・思考・至高

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    「久家博士に子供が?」蓮實が柊に言った。    言われた柊も久家に子供、、、娘がいると言うのは初耳だった。    思わず、口に含んだ珈琲を飲み込むのも忘れて写真に見入る。    写真に写る女の子はどう見ても、高校生。もしかしたら中学生くらいの幼い顔をしている。  なにより、その虚な表情と包帯が痛々しかった。     「柊教授、ご息女には?」長岡が紅茶を啜りながら聞く。   「いえ」柊は短く言った。「僕自身も、初めて知りました」   「そうですか」と長岡。「弟子である貴方も知らないとは、、、“椚カルラ”には相当な裏がありそうですな」    なんの“裏”なのだろう?柊は想像してみたが、適当なものは思いつかない。  ふと、隣の蓮實を見ると考え込む様に外を見ている。     「この、、、怪我は?」柊が思い切って聞いた。   「はい。実は、ご息女、、、久家灯馬(くげとうま)さんもあの日“ステージ”にいたそうで」一度区切って、手帳を見る。「あぁ~、実はあの日が“デビュー”だとかで。あの事故に、、、」    長岡が確認するように言うと、蓮實が顔を上げる。そして、長岡にニヒルに笑って見せた。     「おいおい、刑事さん」蓮實が言う。「小次郎よりも“話しを聞く相手”がいるだろう?」      蓮實の言葉に長岡は顔を上げると、反論する。     「蓮實先生。さっきも言いましたが、我々は“疑うのが商売です”。勿論、彼女にも話を聞いております。しかし-」長岡はもう一度、手帳をみた。「彼女は“シロ”です」    長岡がそう告げた時、柊は冷めた珈琲の黒を眺めてあの夜を思い出していた。
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