嗜好・思考・至高

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    「なんのご用でしょう?」    香坂が品のいい声で聞いた。明日香は、先を越されたと思いながら青年を見る。    年の頃は自分たちと同じくらいかな、と明日香は想像する。  少しだけ野暮ったい黒髪と細い顎が特徴的だ。服装も気を抜いても、使ってもない感じで、明日香は好感が持てた。     「どーも。法村と言います」青年は会釈するように頭を下げる。「柊教授はまだ中にいますか?」    “柊”と言う単語に三人は顔を見合わせた。やがて國枝が切り出す。     「“教授”ならまだ中にいると思いますが」國枝は毅然とすることを意識して言った。「なんの用件ですか?」   「あ、いや、大したことじゃないんですけどね。少しだけ話がありまして」法村と名乗った青年が頭を掻きながら言う。「出来ればお会いしたいな、と」   「では、外部からの人は入構証を事務所で取っていただきますので案内致します」國枝が言う。   「そんなの取らなきゃならないんですか?参ったなぁ」法村は苦笑いを浮かべると、大学を見た。    桔梗明日香は内心ドキドキが止まらない。  何故なら、國枝が言うことは“嘘”なのだ。入構証なんてものは聞いたこともなかった。確かに手続きする様な人間もいるが、法村の場合、学生のフリでもして堂々と正面から入ればいい。  明日香には國枝の腹が見えていた。     「もしよろしかったら」頭を抱える法村に國枝が言った。「私が伺いましょうか?」   「でも、あなたは?」法村が怪訝な顔をする。      國枝はニコリと笑うと胸を張って言う。     「申し遅れました。私、柊研“助手”の國枝知草と申します」
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