嗜好・思考・至高

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    「お嬢さん?」國枝がすぐに聞いた。   「はい」と法村。「久家灯馬さんと言って師の一人娘です」    國枝は直ぐに“久家”と言う名前を頭で検索する。なにはともあれ、世界的に有名な“奇術師”の本名を知ったことになる。  しかし、國枝の検索エンジンに、“久家”なる人物は存在しなかった。     「じゃあ、その娘さんが、殺したのよ。きっと」明日香があてずっぽうに言う。    その言動は、皆の視線を集めたが明日香は気にしない風だった。  法村が首を振る。     「それはありません」法村がキッパリと言った。「あの夜、彼女もあの舞台にいました」   「それなら尚更、、、!」明日香が言う。   「彼女も大怪我をしたんです!」法村が机を叩いた。「彼女も被害者なんですよ、、、人を殺すのに、自分も死にかけるなんて、馬鹿げてる!」      法村の声に、店の中にいた客がこちらを見た。バツが悪くなった法村は肩をすぼめて身を小さくする。     「解りました」國枝が言った。「柊教授には伝えておきます。失礼ですが、ご連絡先を伺っても?」    國枝の言い回しは、“今日はお引取を”というものだった。法村もそれに気付きコクンと頷く。  これ以上はこのメンバーで実りのある話は不可能だろう、と全員が判断していた。     「心配なさらずに」國枝が言う。「珈琲。まだ飲んでないですよね?」    明日香はスッと眉を上げて國枝を見る。彼は構わず先を続けた。     「ここの“ブラック”は至高ですよ」      法村は頷くと黙って珈琲を飲んだ。     「、、、甘い。ですね」法村が驚いた様に言う。   「黒なのに甘い。まるで手品だ」國枝が笑顔を作る。「私はそこを気にいってるんですが」      明日香は肩をすぼめて香坂を見た。彼女も苦い顔をしていた。
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