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「なぁ、小次郎」
紅いスポーツカーの中、ステアリングを握る蓮實が言った。
二人は長岡刑事と別れて大学内の駐車場から蓮實の車で出て来た所だった。
話し込んだ、と言う訳ではなかったが既に時計は21時を少し回っている。
柊は窓の外を眺めたまま蓮實を見ずに、「なに?」と返した。
「死んだのか?久家先生」前を見たまま蓮見が言った。
「刑事さんはそう言ったね」柊は抑揚なく言う。
「何かの間違いってことは?」
「なくはない。けど、ないね」柊は車に乗ってから初めて蓮實を見た。「蓮實。“らしくない”ことを言うね」
「、、、お前こそ。冷静だな」蓮見は小さく舌を打った。
「僕の中では“事故”だから」柊はポケットをまさぐって煙草を取り出してから“禁煙”だった、と気がついた。
「“事件”なら?」蓮實がちらりと柊を見た。
「久家先生が生きてる可能性よりは、、、“ある”ね」柊がまた窓の外に視線をやる。「蓮實、、、」
「吸えよ」蓮實が言った。「ただし一本だけだ。灰皿は使うな」
柊は意外そうな顔をした。実際意外だった。
礼を言おうとしたが、気が変わると困る。柊は黙ってウインドウを開けた。
吹き込む風が髪を、頬を撫でる。
柊は煙草に火をつけると大きく吸い込んだ。
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