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「他に、、、とは?」柊は外を眺めたまま聞いた。
「簡単だ」蓮實が片手をステアリングから離してヒラヒラさせながら言う。「お前が父親を殺したのか?」
「やめないか」柊がすぐに言う。「デリカシーがなさすぎる」
柊の言葉に蓮實はフン、と鼻を鳴らして黙る。
それ以上はどちらもなにも言わずにいた。
やがて、蓮實のスポーツカーが柊のマンションの前に停まる。
柊が車を降りて振り返ると、蓮實もそれを待ってからウインドウを下げた。
「蓮實」エンジンの音に負けないように、少しだけ声を張る。
「なんだ?」蓮實は助手席に身を乗り出して柊の言葉を待った。
「父親を殺す動機はなんだと思う?」柊が言った。いつもの抑揚のない声。
「さぁな。でも、、、」柊の顔付きを見て蓮實が答える。「お前が“戻って来た”のなら、久家先生も安心して逝けるだろう」
蓮實はそれだけ言うと、不敵な笑みを浮かべたまま、ウインドウを上げて走りさる。
(知りたいのは“動機”だ)
柊は煙草に火をつけると、空を見上げた。
満天の星空を期待したが、どんよりした曇り空だった。
いまいち決まらない自分自身に柊は呟く。
「まるで“ブラック珈琲”、、、けれど、僕には似合いだ」
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