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「珈琲でも飲む?」柊が言った。
「ありがとうございます」國枝が頷いた。「砂糖多めでください」
「前から言おうと思っていたけれど」柊が珈琲メーカーの前で言った。「國枝くん。君、糖分を控えた方がいい」
「何故です?」國枝が首を傾げた。「糖分は頭の回転を良くするんですよ」
「僕はいつもブラックだ」柊は國枝を見ないまま言った。
「それは先生の地頭がいいからですよ。凡人と一緒にしないで下さい」國枝が肩をすぼめた。
「そういう言い方は、好きじゃない」柊が振り向いて國枝を見る。「頭に良し悪しはない。使っているかどうかだ」
柊が出来立ての珈琲をソファの前にあるテーブルに置く。國枝はすぐに砂糖を入れた。
そんな國枝を見て柊は一つ溜息をついてから、立ち上がったまま珈琲を啜った。
黒くてさらりとしたそれが、口の中に香ばしい苦味を運んで喉へと通過していく。虚ろな思考がクリアになる感覚が柊は好きだった。
「さぁ、話しを聞くよ」柊が言った。
國枝は少しだけバツが悪そうに笑うと、「先生にはきっと怒られると思います」と前置きしてから切り出した。
「今日、“法村”さんて人に会いました」
「、、、そう。それで?」柊が先を促す。
「はい。実は先生の助手だと嘘をつきました」國枝が目を伏せて言った。
「何故?」柊が聞く。
「その、、、好奇心てやつです。多分」國枝がカップを置いて、座り方を正す。
柊はまた溜息をついた。
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