曖昧なショーで逢いましょう

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     (1)      一台の車が他の車を縫う様に進んで行く。  明らかに法定速度を越えての走行ではあるが、車内の誰一人としてそれを注意する者はいない。     「なんだか連行されてる気分」    後部座席の中央で桔梗明日香が呟いた。    黒と白のボディに、警視庁とマーキングされたパトロールカーの中にいる明日香はとてもそわそわとした気分になる。     「面白いことを言うお嬢さんですね」運転席の長岡刑事が言った。「それともなにか“悪い事”でも?」    明日香は長岡の冗談に肩をすぼめる。両サイドに座る、國枝と香坂はクスクスと笑っていた。     「ところで、柊教授」長岡が助手席の柊をちらりと見た。「学生さんたちを連れて来られたら困りますよ」   「申し訳ありません」柊が長岡を見返した。「どうしても、と聞かなくて。年齢が近いと学生にも強く言えないんですよ」    柊は嘘を言った。  普段の彼なら絶対に連れては来ないだろう。しかし、“法村”の件もあり、國枝を連れてくる必要があった。     「そういうもんですか?」長岡が溜息混じりで言った。   「そういうものです」柊がバックミラーを見ながら言った。    後ろに赤いスポーツカーが一台見える。蓮實の車だ。    この車はかなりのスピードを出している。  80キロ前後くらいだろうか?     「僕の生徒よりも、後ろに違反車がいますよ」柊が面白そうに言う。    長岡は眉をあげると答えた。     「“あちらは私からお願い”してますから」
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