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三人が出て、久家灯馬と柊は二人きりになった。
柊は何も言わずに法村俊弥が座っていたパイプ椅子に腰掛けると、久家灯馬を見て少しだけ目を見開いた。
「酷い火傷でしょう?」
そう自嘲気味に笑う灯馬の左の頬は大きなガーゼに覆われていて、その端々から地面に入った亀裂の様な跡がまだ生々しく見えている。
「可哀相に」柊は心底残念そうに言った。「治るのかい?」
「跡は残りますね」灯馬は力なく笑う。「でも、今ほどではなくなりますから」
「そう」柊は抑揚なく言った。
「それに、、、」
「それに?」柊が雄武返しする。
「私には“これ”がありますから」久家灯馬は枕元からそれを出す。
それは冷たくて妖艶な表情をした女の仮面だった。しかも、かけているのか左側だけである。
柊は眉を潜めた。
「あの夜、、、私が被る予定だった仮面です。右側は焼けてしまったけれど」
言いながら、左頬に仮面をあてる。
あどけない右の顔と、冷徹な左の顔。
柊はいつの間にか魅入られる様に灯馬を見ている自分に気付く。
「どうかしましたか?」
久家灯馬の言葉で柊は我にかえると、小さく息をついてから「君に聞きたいことがある」と切り出した。
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