曖昧なショーで逢いましょう

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     法村俊弥と國枝知草はお互いに牽制し合うように取り留めのない会話を続けていたが、やがてごうを煮やしたのは國枝知草の方だった。     「やはり、まだ柊教授を?」   國枝は直接的には聞かないまでも先を促す様に法村に言った。    問われた法村は煙草に火をつけてから「さぁ。どうでしょう」と首を傾げる。    國枝には法村の意図が掴めない。というよりも、法村自身が自分の方向性を見失っているようにも見えた。   「國枝さんは、吸わないんですか?」不意に法村が言った。   「まぁ、そうですね。吸いませんよ」法村の口元からのびる紫煙を眺めながら國枝は答える。    狭い喫煙室は無煙家の國枝知草にとって大変な苦痛ではあったが、好奇心がその苦痛を和らげているのが現状であった。     「法村さん。本当は柊教授が“椚カルラ”を殺したなんて思ってないんじゃないですか?」    國枝が胸につっかえた蟠りを吐き出すように言う。     「どうして、そう思うんですか?」法村が煙草の灰を落としながら聞く。   「その“余裕”です」國枝が答える。「自分の師が殺されたかもしれない。ましてや、疑わしい人物がいるのに、あなたは煙草なんか吸っている。その殺人者かもしれない柊教授が師の娘さんと二人きりなのに」    國枝は正面を見据えながら言った。遠くに病室の前で待つ桔梗明日香の姿が見える。    國枝はゆっくりと法村を見た。     「法村さん。あなたが知ってることを話して下さい。力になれるかも知れない」    國枝の表情は真剣なものだ。法村は少しだけ考えた様子で言う。     「、、、解りました。お話します。“椚カルラの業”について、全てを」      まだ長い煙草を灰皿に押し付けて法村は一度だけ深呼吸をした。
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