1.安藤 小織

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「いってらっしゃい、良太」  私、安藤 小織(あんどう さおり)は右手を少しだけ振りながら、玄関を出ていく夫の良太(りょうた)にそう言った。良太は 「行ってくるね、小織」 といつものように微笑んで扉を閉める。その時ちらっと外の様子が目に入った。 “――――いる”  咄嗟に私は顔を背ける。その理由はストーカーだ。  ストーカーと言っても、実は私の元・浮気相手。  今年の春に二十六歳になった私に対し、彼は二十歳になったばかりの青年だ。浮気をしていたのは結婚して二年くらい経った頃。当時夫の浮気に悩んでいた私は、駅で軽く声をかけてきた彼、尾池 孝史(おいけ たかし)と交際を始めた。  でもそれは私にとってあくまでも軽い付き合いであり、孝史もそれを納得した上で交際していたんだけど。  孝史は十八歳で、私は二十四歳。どう考えても私には子供としか思えなかった。孝史は独占欲が強くて、子供っぽい嫉妬や強すぎる束縛に堪えられなくなった私は、1年前に別れを切り出し縁を切った。  それからだ、孝史がストーカーへと変貌したのは……。 『割り切った付き合いにしようね』  そう言った私に孝史は大きく頷いて返事をした。でもそんな約束は呆気なく崩れる。  一年もストーカー行為を続けるほど、彼は私を好いていたんだろうか……?
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