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「小織……?」
ゆっくりと目を開く。焦点は暫く定まらずぼやける視界に写った影を何となく見つめた。はっきりとしたその影は良太だった。私の顔を心配そうに覗き込んでいる。
私は良太の顔を見て安堵のため息をついた。
「ここは――?」
「病院だよ。その……、小織ちょっと取り乱してたからさ」
迷惑をかけたなぁ、と私は苦笑した。いつも良太には迷惑をかけっぱなしだ。でも何があったのかよく覚えていない。
私が良太に声をかけようと口を開いた瞬間、病室の扉を開けて入って来た人物がいた。
「今よろしいですかな?」
その人物は一言そう呟いて、小さく頷いた私にやんわりと微笑んで見せる。
「私、東山尾署の畑野(はたの)と申します。いきなりで申し訳ないのですが、尾池孝史さんについて二、三質問させて下さい」
尾池孝史……。
その名前を聞いた瞬間なにもかも思い出した。ガチガチと身体が震える。そんな私の反応に驚くこともなく畑野さんは話を続けた。
ストーカーについて、そこに至るまでの経緯、そして今回の轢き逃げ事故。
私は包み隠さずすべてを話した。唯一、山浦和美という女性の存在を伏せて。
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