7.二人のストーカー

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「戻ったよ」  不意に室内に声が響いた。良太だ。私はベッドから勢いよく飛び降りて携帯を跨ぎ、部屋の扉を閉めようとしている良太に飛びつく。  良太は突然のことに驚いてよろけたが、私が床に転がったままの携帯を指差すとその体が一瞬にして強張った。 「……あれ、どうしたんだ?」 「分からないの……っ。畑野さんと良太がここを出てしばらくしたら、携帯のマナー着信音がして――」  良太にことの次第をすべて伝えると、それまで黙って聞いていた良太がその携帯を拾い上げようと身を屈ませた。途端、携帯から不気味なものが発せられる。 『アイシテルヨ小織。サワルナ……サワルナ……オレノ小織ニサワルナ』  孝史の声。  それが室内に響いて……。良太は手を引っ込めたけど、携帯のそれは止まらず更にはひとりでに動き出し、私の足元にまでずりずりと近付いて来た。 「いやっ! もうやめてぇ!」 ヒステリックに叫ぶ私を抱きしめながら良太が携帯を踏み付ける。けれどそこから聞こえてきたのは携帯の壊れる音じゃなかった。 『……ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ』  不気味な笑い声に私は更に頭がおかしくなりそう。どこにそんな勇気があったのか私は携帯を掴んで病室の窓を開放すると、それを力いっぱい外に投げ捨てた。  そしてふと窓の下に視線を移す。ここは二階で、ちょうど真下に病院の玄関が見えるのだけど、その玄関付近に人影が。
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