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病院の玄関の照明で、そこに立っている人物の体のラインを照らし出す。女性らしい。
私は投げ捨てた携帯よりも、なぜかその女性の方が気になった。俯いているせいか、顔に影が落ちてよく見えない。私は、未だにドア付近でぼーっと突っ立っている良太に振り返って声をかけた。
「良太、ちょっと来てっ」
大きな声を出してはいけないとは思っていたけど、ひそひそ声にするつもりなんてなかった。私は良太を振り返ったあの時、背中に凍りつくような寒気を感じて、思わず声をひそめてしまった。
「ど、どうかしたのか?」
良太は少し緊張しているのか、声が震えている。窓際に歩み寄った良太に、私はまたひそひそと耳打ちするようにあの女性の存在を告げた。
「本当だ……。おかしいな、面会時間はとっくに過ぎてるし」
私たちは二人で顔を見合わせた。
「……っ」
私は再びあの寒気を感じ、窓の下に視線を移す。さっきまで俯いていた女性は少しだけ顔を上げていた。というより、私の病室を見ているようにさえ感じる。
(何……、痣?)
その女性に恐怖を覚えながらも、私は照明に照らし出された顔を観察した。
左の頬は真っ赤になって腫れ上がり、右の瞼は紫色をしていて、それが明らかに痣であることを語っている。
(まさか……、まさか、ね)
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