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良太は私がさっきしたように窓から壊した携帯を放った。私よりももっと遠くに向かって。
その時、良太はある一点を見つめて首を捻った。向きから考えれば病院の玄関辺り。
「……あの人、まだいるのか」
その言葉で確信が持てた。まだいる、あの女性が。
私は止せばいいのに窓際に歩み寄り、窓の下にいるであろうその人物を覗き見た。
さっきより顔が上向いている。しかも確実に私のことを見ているみたい。
「僕ちょっと見てくるよ。もし何かあったら看護婦さん呼ぶから」
「良太っ――」
私が続きを口にする前に、良太は病室を出て行ってしまった。心配なのは、あの女性が和美かもしれないこと。しかも良太は和美の存在を知らない。
もし何かあったら……。
私はじっとしていられず、良太の後を追いかけようと病室を出た。しかしそこにはとぼとぼとこちらに向かって来る良太の姿が。
「あ、小織。看護婦さんに見つかっちゃって、理由話したら見に行ってくれるって」
私はその呑気な声に、何だかものすごく安心してしまった。良太も看護婦に見つかったのが恥ずかしかったのか、顔をぽりぽりと掻きながらヘラヘラと笑っている。
私たちは病室に戻って、今夜はとりあえず眠ることにした。壊した携帯も今の所戻って来ていない。
私をベッドに寝かせ、良太は用意された宿泊用の簡易ベッドに身を倒して眠りについた。
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