秘密

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「柊、忘れ物、ない?」 「ああ、大丈夫だよ。」 柊が、アメリカに今日、戻る。 今度帰ってくるのは、初夏だろう。 「柊、清香とは、ちゃんとお別れしたの?」 玄関で座り込み、靴を履いていた柊は、背後に立っていた透子を見上げた。 「良かった。まだ、姉ちゃん、俺のこと少しは気にかけてくれてるみたいだ。」 「どういう意味よ。」 「だってさ。昨日だって、俺のことなんてそっちのけで、キッチンで聡くんと抱き合ってるし。」 「なっ…。」 透子はサッと顔を赤らめた。 恥ずかしさで話し方が乱暴になる。 「だって、柊が私たちより先に帰ってきてるなんて思わなかったんだもん。 ここんとこ、いつも午前様だったくせに。」 「だからって、なんだよ。 俺は、出発前の最後の夜だから、 姉ちゃんと語り合おうと思ったのにさ。」 「柊…。」 大きなため息をつき、上目遣いで透子をみる柊の表情が、あまりにも、淋しそうで、 透子は、表情を緩めた。 「ごめんね。そうだよね。」 透子は、その場にしゃがむと、 目線の高さが同じになった、 柊の瞳を覗き込む。 「姉ちゃん…。」 久しぶりに間近で透子の顔を見て、柊はドキマギしてしまった。 思わず、目をそらしうちむく柊の体を、透子はそっと抱きしめた。 「柊のこととても大切。 それはなにがあっても変わらないから。」
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