号砲

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夏の終わりを告げる心地よい風が吹き抜けた。 「今年こそは100m差つけて勝つけんな!」 俺の宣戦布告に、稜は眉一つ動かさず答えた。 「ん……まぁ怪我せんごと頑張りぃ」 今日は小学校のマラソン大会だ。 俺とこのスカしたヤローは物心ついた頃から一緒にいる、まぁいわゆる親友ってやつだ。 そして、毎年このマラソン大会では凌ぎを削るライバル同士でもある。 これまでの勝敗は 1年…俺 2年…俺 3年…稜 4年…稜 5年…引き分け 去年は、ゴールの運動場に続くちょっとした坂道で、アスファルトの窪みに足をひっかけた俺が盛大にすっ転んだ。 そのあと血だらけの脚を引きずって必死に追いかけ、ゴール手前でかなり詰めたが僅かに及ばず…… 悔しくて大泣きしたっけ。 あれはマジで格好悪かった。 でも稜は表彰式のとき 「転んでケガした健太と差を広げるどころか逆に詰められた。勝負には勝ったけど、走りでは俺の負け」 と普段は物静かなくせに、全校生徒の前でこんなカッコイイことぬかすもんだから、拍手喝采の後、勝負は引き分けとなった。 稜は小学生のくせしてかなりすましたナイスガイなんだ。 もともと女子からの人気は高いんだけど、あの演説から、またさらに稜のファンが増えたっけ。特に低学年の。 俺余計に惨めになったよ。 まぁ、友情は深まったけど。 というわけで、2勝2敗1引き分け。 今日勝った方が、小学生時代の勝者ってわけだ。 なんかこう、燃えてくる。
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