似たもの同士の出会い

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今まで活動していたプロギターリストとしての地位と名誉も捨てて、何の縁もない土地にきた。 と、いっても県を1つ間に入れた場所だ。 持ってきたものは、通帳、ギター、ノートパソコンのみ… 忘れようとした自分の過去の商売道具を無意識に肩に担いでこの街を訪れた。 静かで、穏やかで、急かされない街… とりあえず東京より何倍も安い地価であるため、東京に住んでいた時よりも低賃金で綺麗なマンションの部屋に住むことができる。 それでも市街の中にあるマンションだ。 早速借りたマンションの部屋にパソコンと通帳を置き、何故かギターを持って私鉄に乗り込んだ。 行き先はわからない。 ただ少ない本数で少ない車両の電車に揺られ、なんとなく直感で降りる駅を決めた。 なにもなくて、がむしゃらに歩き、ふるびた小さな公園の前にある神社にたどり着いた。 誰もいない。 初夏の眩しい日差しの中で木々のこもれびが照らされる石段に座り込んだ。 別になんの目的もない。 自分が有名人だと言うことも忘れることができる。 その穏やかな日溜まりの中、いつしかその場所でウトウトと眠りかけていた。
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