このセカイ。

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 家に帰っても何も変わらない。学校と同じ様に振る舞うだけ。 「お帰りなさい、有栖」 「ただいま、お母さん」  親の望むように可愛らしく微笑みながら言う。一言二言、母親と言葉をまじわして自室へ向かう。私には特に趣味もないから部屋に籠ってもあまり楽しくはないのだけれど、母親と会話するよりはマシだ。  ある程度頭が良くて(私の通う学校は一応進学校。とは言っても普通科はそんなにレベルが高くはない)、生活態度も良好。  この親は、そんな娘を望んでいる。親の期待に添いつつ、私は『私』であることが出来なかった。  目立たないようすること以外にエネルギーを使うこともないし、好きなこともない。あ、ぼーっとするのは好きかもしれない。  無味乾燥。  灰色の青春。  きっと私にはそんな言葉がよく似合う。けれど、私がきらきらした何かを掴むには、たぶんもう遅すぎる。
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