試したくなる力

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それにしてもマズイ。 一回表、無死満塁。 観戦に来ている女子も立ち上がり始めた。 「しっかりやれよ相沢ぁ!」 実際投手だったセンターが怒声をかける。 こっちの気も知らないでグダクダうるさいんだよ。 第一お前負け投手だろ? 力も何も無いくせにでしゃばりやがって。 あ。 俺の力。 命を代償にしたこの力。 使えば良いんだ。 「へへ、相沢。一点と言わず、全ランナーを帰してやる」 ほざいてろ… パッとで役者のくせに。 今お前に魅せてやる。 捕手がサインを出しているが、俺は断固として首を振る。 俺が望むサインは…ど真ん中直球。それを読み取った捕手が、余裕を見せている打者に一言呟いた。 無論、俺に聞こえるわけはない。 ただわかるのは、かなりいきり立った打者は、挑発か何かを捕手からされたというぐらいだろう。 捕手もど真ん中に構えている。 準備OK。 俺は、大きく振りかぶり、そして…投げた。 辺りを沈黙させるほどの、まるで爆発音が響いた。 「ストライーク!!」 歓喜な声に俺は囲まれ、投げる。 投げる。 投げる。 投げる… 俺の目に映るものは、打者はどうであれ、球はしっかりグラブに収まっていること。 塁に誰もいかないこと。 そして、一点たりとも掲示板の相手チームに書かれていないこと。 とりあえず…一回戦、勝ってしまった。 その後はどうでもいい。 結果は変えられる。 …そのことを知った。 だから… その後はどうでもいい。 俺が変えてやる。 この手で。 この力で…。
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