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睨んだその先に黒い服を着た1人の男が、同じように傘も差さずに立っていた。
決してその男を睨んでいるわけではないが、ゆっくりとしたペースで徐々に近づいてくる。
(…え?何…?)
真っ直ぐに自分の元へ来るため、さすがに躊躇いが生まれた。
近づくにつれわかったのは男はまだ少年で、高校生らしいということ。
黒く見えた服は、この近くの高校の制服。
「お姉さん、風邪ひくよ?」
目の前まで来た少年は、自分のことより女性の心配をする。
「…君も風邪ひくよ?」
女性は涙を流したまま、同じ言葉を返した。
「俺は…いいんだ。風邪ひいても構わないよ」
その言葉にはなんの感情もこもっていない。
「学校に行く…っていう感じじゃないわね」
少年はただ苦笑いを浮かべた。
女性の言っていることは当たっている。
今日はなんだか、学校に行きたいと思えなかったのだ。
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