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「…お姉さん、どこに?」
耐えかねて聞いた時、10階建てのマンションに素早く入った。
「あぁ、ごめん。あれ以上いたら本当に風邪ひくと思ったからね」
手を繋いだまま、エレベーターを待つ間に、女性は今日初めての笑顔を少年に向けた。
さっきまで泣いていたのが嘘のように、柔らかく笑う。
「あたしの部屋でゆっくりするといいよ。お風呂も使って構わないし」
見透かされてる…少年はそう思った。
今は学校に行く気はない、ということを。
ドアが開き乗り込む女性に手は引っ張られているものの、今は自分の意思であとに続く。
「名前は?」
「聡吏(サトリ)。お姉さんは?」
「楓(カエデ)よ」
エレベーターは目的の階、5階につき楓はその手をようやく離した。
どこか名残惜しく思ったのは、聡吏だけだっただろうか。
聡吏はその繋いでいた手を見つめる。
ガチャっと音がして顔を上げると、楓が玄関から手招きをしていた。
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