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ガァーっと自動ドアが開き、聡吏はまだ慎重に歩いて中に入っていく。
緊張と不安。
受付へと向かう足は重い。
そこには2人の女性。
今は談笑しているようで聡吏には気づいていない。
一度深呼吸をし、受付の前に立った。
「いらっしゃいませ」
綺麗に頭を下げる女性に、覚悟を決めて口を開いた。
「あの、こちらに三本楓さんいますか?」
「君、誰?楓ちゃんの何?」
聡吏が声をかけたのは、瞹僮の親友・椛だ。
対応は穏やかだが、怖いと思わせる笑顔にたじたじとなる。
(やっぱり門前払い!?)
「俺は楓さんの…」
その先が言えなかった。
彼氏ではない。
だが、元カレとは言いたくない。
「クス…楓ちゃんに会いに来たんでしょ?」
先ほどとは打って変わって、優しい笑顔を見せる椛はどこかへ電話をかけ始める。
わけがわからずキョトンとしていると、彼女はウィンク1つしてお茶目に舌を出した。
『はい、経理部』
「フロントです。楓ちゃん、あなたにお客様」
取り次いでもらえたことにホッとした。
それでも、そのあと楓がどう答えるか…
『…お客様?』
「えぇ、そうよ」
『…わかりました。今から下に…』
『椛、上に来るように言ってね♪』
どうやら受話器を瞹僮に取られ、一方的に切ったみたいだ。
「はい、これ。上まで行くとうるさいのがいるから、この部屋使って。ちゃんと言っておくから」
「ありがとうございます」
ルームキーを受け取り、椛に頭を下げるとエレベーターの前に立つ。
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