運命

36/49
前へ
/386ページ
次へ
音が出ている先には、扉があった。 戸惑いながらもゆっくりその扉を開けると、その部屋は防音装置が設置されているようで、かなり大きな音が鳴り響いていた。 …ピアノの音色だ。 だだっ広い部屋の真ん中に置かれている、立派なグランドピアノの椅子に座り、演奏していたのは龍也だった。 ショパン作曲。 幻想即興曲。 悲しくも激しいそのメロディーと音色に、花は思わず息をのむ。 龍太郎と瓜二つの龍也が、長い指で優雅に演奏するその姿は、それだけで絵になっていた。 その時。 龍也の長い指が絡まり、曲が止まった。 突然訪れた静寂に、花ははっと我に返る。 改めて龍也に目を向けると、震える両手を見つめ、唇を噛みしめているようにも見えた。 思わず後ずさりをした花の足音に、龍也が勢いよく扉の方を振り向いた。
/386ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19849人が本棚に入れています
本棚に追加