車椅子の老婆

13/21
前へ
/647ページ
次へ
『…家族はどこ?直ぐに呼んできて…確認とるから』   今井先生は笹原さんの顔をジッと見つめ静かに口を開いた。     『はい…』     私は小さく頷き早足で救急処置室の自働ドアを開けた。   扉が開く途中、直ぐ前の長椅子に座っている息子さんの姿が目に飛び込んできた。     『笹原さん、医師からの説明がありますのでこちらへどうぞ…』     息子さんは私が近づく足音で、うつ向く顔をハッと上げた。     そして黙って立ち上がると 『はい、…お願いします』    待ち合いで座っていた時と変わらない表情でそう答えた。       今も蘇生法を続ける処置室へと戻ると、私は今井先生に代わり心臓マッサージを始める。     『笹原よしこさんの息子さんですか? 私は内科の今井です。まず現在の笹原よしこさんの容態ですが…』     今井先生は白衣のポケットからペンライトを取り出し、横たわる笹原さんの頭側に回った。
/647ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71607人が本棚に入れています
本棚に追加