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穏やかな春の昼下がり。
ほんの少しだけ開けた窓からは、草花の香りを乗せた温かな風が舞い込み、カタカタと白いブラインドを揺らす。
「はぁ~、すっかり春を感じるね~♪心が高揚するね~♪」
ブラインドの隙間から見える水色の空を見上げ、白衣を着た中年女性が嬉しそうに目を細めた。
「ユリさん!また窓開けて!くしゃみで仕事にならないから閉めてくださいよ」
私は彼女の横顔に声を掛け、マスクの上から鼻を押さえた。
「え~~、せっかく春を感じる風が入ってくるのにぃ~」
「私には花粉しか感じられません。ほら、花粉が…花粉がぁぁぁ……ヘッ、クションッ!!」
「櫻ちゃんの花粉症も重症ねぇ。薬飲んでマスクしててもそれなんだから。
春を楽しめないなんて可哀想に」
「効き目の強い薬使うと、症状良くなっても頭が働かなくなるから使えないんですよ。
とにかく、もう窓は開けないでくださいね!」
涙目の私はティッシュで鼻を押さえ、急いで窓を閉めた。
「つまんないの~。はぁ~い、わっかりましたぁ~」
彼女は口を尖らせ、わざとらしく低い声で冗談めいた返事をした。
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