櫻の恋の物語

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「…ねえ、まさか湯原先生が開業したらそっちに行くとか言わないよね!?」 ユリさんは目を見開き声を上げる。 「はあ?何それ。大体まだいつ開業するかも決まってないらしいじゃん」 「あの男は駄目よ!あんな冷酷な男の下で働いたら毎日コキ使われて、言葉で虐められて使い物にならなくなったらポイッよ」 「だ~か~ら、勝手に話を進めないでよ。私はずっとユリさんとこの病院にいるから。…」 …たぶん。 「さ~てと、急いでお転婆娘を迎えに行かなきゃね~」 私はバッグを肩に掛け直し軽く深呼吸をする。 「あっ、私も買い物して帰るんだった!」 ユリさんは突然足早に更衣室へ向かう。 チラリと後ろを振り返ると、既に湯原先生の姿は無かった。 心臓が爆発するかと思うくらいに緊張続きだった緊急手術。 オペ室ナースだった頃の、体で覚えた感覚を呼び起こしてくれた貴重な体験。 外来では決して見ることのできない、湯原先生や兵藤先生、槇さん達の素晴らしい技術。 私達は職人だ。 今日のこの体験は必ず私の糧となる。 医者としてのプライドを持ち、人としての優しさで小山さんを救ったのは間違いなく湯原先生だ。 医者として尊敬できる人。 「やっぱ……好きかも♪」 「えっ?何?」 「ううん、何でもな~い♪」 小さな声でフフッと笑い、同僚として信頼のできるお姉様の後ろを追いかけた。
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