71601人が本棚に入れています
本棚に追加
/647ページ
「…ねえ、まさか湯原先生が開業したらそっちに行くとか言わないよね!?」
ユリさんは目を見開き声を上げる。
「はあ?何それ。大体まだいつ開業するかも決まってないらしいじゃん」
「あの男は駄目よ!あんな冷酷な男の下で働いたら毎日コキ使われて、言葉で虐められて使い物にならなくなったらポイッよ」
「だ~か~ら、勝手に話を進めないでよ。私はずっとユリさんとこの病院にいるから。…」
…たぶん。
「さ~てと、急いでお転婆娘を迎えに行かなきゃね~」
私はバッグを肩に掛け直し軽く深呼吸をする。
「あっ、私も買い物して帰るんだった!」
ユリさんは突然足早に更衣室へ向かう。
チラリと後ろを振り返ると、既に湯原先生の姿は無かった。
心臓が爆発するかと思うくらいに緊張続きだった緊急手術。
オペ室ナースだった頃の、体で覚えた感覚を呼び起こしてくれた貴重な体験。
外来では決して見ることのできない、湯原先生や兵藤先生、槇さん達の素晴らしい技術。
私達は職人だ。
今日のこの体験は必ず私の糧となる。
医者としてのプライドを持ち、人としての優しさで小山さんを救ったのは間違いなく湯原先生だ。
医者として尊敬できる人。
「やっぱ……好きかも♪」
「えっ?何?」
「ううん、何でもな~い♪」
小さな声でフフッと笑い、同僚として信頼のできるお姉様の後ろを追いかけた。
最初のコメントを投稿しよう!