胸に咲く桜

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宮脇さんと世間話をしながら診察室に入る。 「こんにちは。先生ごめんなさいね~。お待たせしちゃって。ここに来るとお喋りの相手をしてくれる人がいて、つい話込んじゃうのよね」 宮脇さんは籠に荷物を置き、西島先生の横にある丸椅子に腰かけながら笑った。 「そうですか。通院が苦にならないのが何よりです」 先生は宮脇さんの表情を見つめると、目尻を下げて柔らかな笑みを返した。 先生の前で嬉しそうに微笑むこの女性は、宮脇たか子さん(仮名)59歳。 4年前に乳がん健診で左乳房に腫瘍が見つかり、病理組織検査で左浸潤性乳管癌と診断。 腫瘍が小さい事と、広範囲の浸潤が無いこと、そして本人が乳房を残したいと言う強い希望があったため、左の乳房を4分の1切除+腋窩(わきの下)のリンパ節郭清(切除)する乳房温存手術を行った。 乳がんの手術を行った場合、再発するのは手術後2~3年後が最も多く、10年以内には、患者さん全体の30%~40%に再発が見られている。 乳がんの場合、手術、放射線、抗がん剤、ホルモン剤治療等の「その人の癌の性質」に合った治療を行い、10年間再発を見られなかった時点で「完治」とされる。 が、再発、転移が起これば再度の手術は行わない。・・・完治はできない。 転移乳がんに対する治療の現実的な目標は、がんをコントロールし、痛みなどの症状を緩和、生活の質を保ちながら「延命」すること。
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