胸に咲く桜

14/78
前へ
/647ページ
次へ
『いつか体全体にこんなデキモノができて、醜い化け物になっちゃうんでしょうか』 ・・・それが宮脇さんの恐怖。 もし自分が宮脇さんだったらと思うと・・・ もし、自分の体から腫瘍が皮膚を破り飛び出していたらと想像すると・・・とても正気ではいられない・・・。 宮脇さんの抱える恐怖心は、どんなに想像しても、解ってあげたいと願っても、同じ病に侵された者にしか理解できない・・・。 再手術はできないと言われた宮脇さんの目に、抑えきれない涙が滲む。 その宮脇さんの表情を見つめ、 「手術に意味がないのは、転移がんだと言う理由だけではありません。僕が一番恐れているのは、手術をしてしまうとしばらく抗がん剤で全身治療ができなくなってしまうからです。 実は、放射線科に宮脇さんの事を相談しています。・・・宮脇さん、あなたが望むなら放射線治療をしましょう」 先生が慎重に言葉を繋げた。 『えっ!?放射線!?・・・』 私は驚き、声にならない心の声を発した。 宮脇さんは意味が解らないという様子でポカンとしている。 現在の乳がん治療は、手術と放射線治療はセットとされている。 例外なく、宮脇さんも手術をした際に放射線治療をおこなった。 そして、その後に再発したとしても、同じ部位に放射線を当てることは通常有り得ない。 先生、正気で言ってんの!? その「タブー」とされる治療を提案する先生を見つめ、私は目を丸くした。
/647ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71605人が本棚に入れています
本棚に追加